未発表発掘!ダーク・スピリチュアル&メディテイティヴな百戦練磨のピアノとソプラノサックスの硬質インプロ合戦が殊の外濃厚に盛り上がる充実ライヴ!!!
【ELEMENTAL MUSIC】
●2枚組CD MAL WALDRON & STEVE LACY マル・ウォルドロン & スティーヴ・レイシー / THE MIGHTY WARRIORS - LIVE IN ANTWERP
1950年代から長年に渡って、デュオ、トリオ、カルテットなど様々な形態でライフワーク的に共演〜コラボレーションを重ね、数多くの優れたレコーディングを残した、マル・ウォルドロン(p)(1925年米ニューヨーク州ニューヨーク市生まれ、2002年ベルギーのブリュッセルで死去)とスティーヴ・レイシー(ss)(1934年米ニューヨーク生まれ、2004年米マサチューセッツ州ボストンで死去)の盟友コンビの、本盤は、レジー・ワークマン(b)&アンドリュー・シリル(ds)を伴ったカルテット編成による、1995年9月30日ベルギー-アントワープで行なったコンサートの模様を捉えた未発表ライヴ音源の発掘ディスク化。ドス黒い陰影を帯びつつ鋭利に突き刺さる刃のようなソリッド・タッチのピアノが、何かに憑かれたが如く執拗にアグレッシヴかつメディテイティヴな硬質スウィンギン・プレイを半ば反復運動っぽく繰り出して、濃厚なる暗黒の情念を高密度に映し、或いは燻り出し、一方、尖りと丸みを併有したニュアンスに富むトーンのソプラノサックスが、飄々と軽やかに浮遊する風な行き方の中にしっかり濃くシリアスなスピリチュアリティを滲ませる独特のメランコリック吹奏で、中々悠然と拮抗、またキレ味シャープにズバリ急所を衝いてくる感じのドラムや、こってりコク深く情魂を語り尽くしながらウネり躍るベース、らの機略縦横にして律動感抜群の遊撃ぶりもガッチリ頼もしくスリルとグルーヴを強化しきった、全般にダークではあるが旨みに溢れたワン&オンリーのリリシズム世界をじっくり愉しませる、ちょっと凄味めいた気魄のみなぎった敢闘内容。極めて暗く面持ちは険しげなもののその根っこには独自の歌心や詩情が確固と息づき、リズム・セクションがあくまで真っ当にスイングしていることやコンポジションを重んじる姿勢などもあって、即興色は濃いけれど所謂フリー系とは一線を画した(但し後半の一部ではフリー色が強まるところもある)、ハードボイルド・ロマネスク熱演が重厚さをもって展開してゆき、ワークマン(b)やシリル(ds)の空間底部から突き上げてくるような敏活ダイナミズム攻勢に上手く煽られ、触発される恰好で、ウォルドロン(p)とレイシー(ss)の、ともにどこまでもマイペースで磨き抜いた得意ワザを揺るぎなげに嬉々として披露する風な、結構和気あいあいのアドリブ合戦が迫真力満点の盛り上がりを呈して壮快だ。ウォルドロン(p)の、甘さ控えめでグルーミーながらブルース・フィーリングやブラック・ソウルを一瞬も絶やすことのない鋭角的スピリチュアル弾奏がさすがの濃度で芳醇なる妙味を放っており、かたやレイシー(ss)の、ウォルドロンの硬質骨太さに比してより無重力っぽく宙を漂うが如きいい意味でちょっと摑みどころのない遊泳感を巧まず堅持しつつ、しかしピリッとしたスパイシーな憂愁フレーズを軽々炸裂させる、例によってレイシー流イマジネーションが変幻自在の絶好調ぶりを示したその流麗インプロヴィゼーションもまた鮮やかに冴え渡っていたりと、そうした、各々百戦練磨の"ウォルドロン節"と"レイシー節"がごく事も無げに最良の魅力を揮っており全く見事。
Disc 1:
1. What It Is (Mal Waldron)
2. Epistrophy (Thelonious Monk - Kenny Clarke)
3. Longing (Steve Lacy)
4. Monk's Dream (Thelonious Monk)
Disc 2:
1. Variation Of Iii (Reggie Workman)
2. Medley: Snake Out (Mal Waldron) / Variations On A Theme By Cecil Taylor (Mal Waldron)
Steve Lacy (soprano saxophone)
Mal Waldron (piano)
Reggie Workman (bass)
Andrew Cyrille (drums)
1995年9月30日ベルギー-アントワープのDeSingel Arts Centerでのライヴ録音
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マイルド・フォーキーな北欧流のロマネスク牧歌傾向にバップ&ブルース&モード由来の硬派吟醸感も隠し味的に加えられた現代リリカル・ピアノの清新クリーンヒット!
【PROPHONE】
●CD PETTER BERGANDER TRIO ペッテル・ベリアンデル / WATERSHED
以前は人気女性歌手ソフィア・ペッテションの参謀的な立場で大いに英才を発揮していた、スウェーデンのキャリアある中堅ピアニスト:ペッテル・ベリアンデル(1973年生まれ)の、前作と同じ鉄壁レギュラー・トリオによる、リーダー・アルバムとしては通算3作目となる快調・自作曲集。端正で精緻それでいてゴツッとした固さや重み並びに濃い陰影をも湛えた、歯切れよさと滑らかさを絶妙に交差させる敏活げなタッチのピアノが、ポップな歌性もしくは北欧フォーキーな哀歌傾向とブルース・テイストを掛け合わせつつ、立ち回りにおいてはバップやモードのイディオムも下地っぽく活用した、中々にユニークな躍動型メロディック・プレイを落ち着いた調子で余裕をもって紡いで、ロマネスクで幽玄豊かな瑞々しい魅力を揮い、一方、機微に富みデリケートかつシャープなドラム&ベースのえぐり込むような絡み様もスリルとノリを的確に高めた、何より主役ピアノのありそうでどこにもないコンテンポラリー・リリシストたる語り口の粋に清新気分でスッキリと浸れる、さりげなく研ぎ澄まされた快投内容。今時らしく現代感覚溢れる多種多様なリズミカル・ビートが採用される一種の"グルーヴ物"的趣を呈しつつ、その中で歌心や詩的情緒と小気味よいノリ〜律動性を最重視する今日流アクティヴ抒情派の正統らしい端麗快演、が何とも爽やかに展開してゆき、クルーゼ(b)やイキズ(ds)の芸の細かい機略縦横のバックアップも大いに光るが、しかしやはりそれより遥かに増してベリアンデル(p)のごく自然体の脱力調子で繰り出される独創性満点のアドリブ妙技が、曲想とも相まって生鮮度抜群の圧倒的妙味をあくまで軽々と事も無げに放っていて卓越している。→似てはいないもののかつてのキース・ジャレットやラーシュ・ヤンソン辺りに通じるところのある、ちょっとゴスペル・フォーキーな語法をスカンジナヴィアン吟遊牧歌情景の描写に転用したマイルドでいて幾分渋い吟醸感ある節回しであったり、クラシック・ピアノに根ざしたルイス・ヴァン・ダイクを想起させる(但しこれも似ているわけではない)エレガントなアプローチであったりと、スウェーデンの今を生きる詩人気質の美旋律に溢れた文脈展開が誠に快調だが、しかしながらそういう美メロの宝庫的な側面もあまり耽美的になりすぎることなく隠し味としてバップやモードの言語理念に基づいたダイナミック・アクションも巧まず豊富に織り混ぜることによって、正統筋のジャズ・ピアノならではの硬派寄りな旨味っぽさも適宜醸成される、という、トータルなアウトラインとしては表面上ハード・バップらしくはないものの、そうした何げないバランスの取り様にさすがの熟練や含蓄深さ・懐深さを好もしく感じるところ。
1. On The Train To Lviv
2. Watershed
3. Day Eleven
4. Get Out Of Here
5. Lilla Blåvinge
6. If I Would Have Known
7. Lucky
8. Days To Come
Petter Bergander ペッテル・ベリアンデル (piano)
Eva Kruse エーファ・クルーゼ (double bass)
Robert Mehmet Sinan Ikiz ロベルト・メフメット・シナン・イキズ (drums)
2019年6月スウェーデン-ヨーテボリのニレント・スタジオ(Nilento Studios)録音
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クール・テンダーでありパワフル&エモーショナルでもあるメリハリの利いたドラマティックな抒情派歌唱が清々しいキレを見せた北欧ヴォーカル会心作
●輸入盤LP ISABELLA LUNDGREN with MUSICA VITAE arranged by CARL BAGGE イザベラ・ルンドゥグレーン / THE WAY YOU LOOK TONIGHT : THE SONGS OF DOROTHY FIELDS
LadybirdやSpice of Lifeよりの諸作に好評を得てきた、スウェーデンの人気歌姫:イザベラ・ルンドゥグレーン(1987年スウェーデンのカールスタード生まれ)の、今回は、このところレギュラー的にその相棒を務めているピアノのカール・バッゲと組み、バッゲの仕切り(アレンジ)によるストリングス(ムシカ・ヴィテ室内管弦楽団)をフィーチュアしてのドロシー・フィールズ(作詩)集。壮麗でエレガントな音響美(&ムード美?)の極致とも云うべきストリングスの調べが繊細かつドラマティックに鳴り渡る中で、澄みきったクリーンな透明感やヒンヤリ爽涼な潤いに満ちた、と同時にしなやかで力強い張りや伸びをも呈するトーン高めの鮮明ヴォイスが、メロディーの一つ一つを慈しみながら真心こめて丹念に詩情を映し出す、テンダーであり凛々しくもあるリリカル演唱を綴って瑞々しい感動(と切なさ)溢れる煌めきっぽい魅力を放ち、バップ・スピリットとアーシー・ソウル一杯なピアノの中々の骨太プレイもしっかりと旨味を醸成した、全般に落ち着いた雰囲気の中に敏活な躍動感を多々含む結構エモーショナルめの文脈形成で、こちらも清々しく胸打たれる快演内容。バラードや寛ぎ傾向の行き方が概ね基調となっていて、インティメイト&ハートウォーミングな一種の室内楽的和み気分やたおやかさが齎されるが、しかし主役ルンドゥグレーン(vo)の歌唱表現は序盤こそしっとりとしたメロウ・ムーディーな趣を醸すものの、その後は声量の豊かさとわりかし強靭な伸張力&キレを全開させ、パワフルに情動を表すジャズ・ヴォーカルならではのメリハリに富んだ劇的語り口、に遺憾なく本領が揮われていることもあって、大筋では憩えるがリラックス一辺倒に終わらないタフなグルーヴも充分の展開で大いに昂揚させてもくれる、という周到な寸法だ。ルンドゥグレーン(vo)の、声音の感触そのものは北欧らしい涼やかさ〜クールネスに溢れているが、節回しとしては結構ダイナミックに起伏・抑揚を描いてエモーションの烈しさを生々しく描破する"グルーヴィー"な行き方=「熱唱」を旨としており(少なくとも本作に限っては基本的にその声を力の限り大きく張り上げるタイプ、か?但しスキャットなどは一切使わずひたすら歌詞・言葉を真摯律儀に尊守している)、あくまで抒情的でありながら逞しくストロングでもあるその背筋の伸びきった歌声のあり様には、殊の外切実な哀歓が濃く顕れていて思わず胸揺さぶられ説得力も絶大。ルンドゥグレーンの存在感が何より圧倒的ではあるが、バッゲ(p)のセンスのいい洒脱なブルージー・バップ妙技も随所に光っている。
01. The Way You Look Tonight (Jerome Kern / Dorothy Fields) (omit p)
02. A Fine Romance (Jerome Kern / Dorothy Fields)
03. I'm In The Mood For Love (Jimmy McHugh / Dorothy Fields)
04. I Can't Give You Anything But Love (Jimmy McHugh / Dorothy Fields) (vo & p duo)
05. Where Am I Going (Cy Coleman / Dorothy Fields)
06. I Feel A Song Coming On (Jimmy McHugh / Dorothy Fields)
07. April Fooled Me (Jerome Kern / Dorothy Fields)
08. On The Sunny Side Of The Street (Jimmy McHugh / Dorothy Fields) (vo & p duo)
09. Close As Pages In A Book (Sigmund Romberg / Dorothy Fields)
10. It's Not Where You Start, It's Where You Finish (Cy Coleman / Dorothy Fields)
Isabella Lundgren イザベラ・ルンドゥグレーン (vocal)
Carl Bagge カール・バッゲ (piano except 01) (arrangement)
Musica Vitae ムシカ・ヴィテ室内管弦楽団 (string ensemble except 04, 08)
2023年8月22日-24日スウェーデン-ヴェクショーのニューガータン 6(Nygatan 6)録音
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ハード・ドライヴィング&ブルージー・テイスティーにしてコンテンポラリー&フューチャー色も含んだテナーサックス・インプロヴィゼーションの極致を軽々見せる爽快な会心打!
【UNIVERSAL MUSIC JAPAN】
●国内盤SHM-CD CHRIS POTTER クリス・ポッター / EAGLE'S POINT +1 イーグルズ・ポイント +1
独創性溢れるコンテンポラリー・テナーサックスの最高峰にして当代随一の名インプロヴァイザー:クリス・ポッター(1971年米イリノイ州シカゴ生まれ)の、今回は、ブラッド・メルドー(p)、ジョン・パティトゥッチ(b)、ブライアン・ブレイド(ds)という最強の顔ぶれのオールスター・カルテットを率いての自作曲集(日本盤にはボーナス・トラック1曲追加)(英Edition Records原盤作品)。締まりとユルみが微妙に混在した中々味のあるトーンのテナーが変幻自在の滑脱さをもって渦巻きを描くような、ドライヴ感に満ちたビタースウィート風味の躍動的プレイを精悍かつ軽やかに綴って凛々しくも陰影豊かな華を悠々と成し、パーカッシヴさや幾何学性とバップ&ブルース由来のグルーヴィーさの兼ね合いが絶妙なピアノ以下、リズム隊の豪快でいてきめ濃やかでもある機動力抜群のサポートも実に的確にスリルとノリを強化しきった、全体を通じ幾分シリアスめでハードボイルドなイメージの現代流モーダル・バピッシュ・ジャズの正統らしい音世界を生鮮度満点に愉しませる、わりかしスッキリとした会心打内容。硬派で意気軒昂なアクションの迫真力と明快で親しみやすい歌心やブルース・テイストが黄金率で掛け合わされた、コンテンポラリー筋モード系ハード・バップの真髄たる骨太のダイナミック熱演がイキイキと敏活に展開され、リズム・セクションの、ワイルドネスとセンシビリティを併せ持ち、上手く使い分けた闊達バックアップに頼もしく支えられ、また適度に煽られながら、ポッター(ts)の、キリッと苦味走っていつつ優しい抒情面を垣間見せるところも多々ある、緩急柔剛心得た流れるような即興ワザが瑞々しい煌めきを、冴えを示して全く鮮麗だ。→刻々変転する今日流リズミカル・ビートの上で、先ずは雄々しく逞しげな毅然たる立ち回り攻勢で聴く者をピリッと緊張させつつスリリング&エキサイティングに昂揚させ、一部バスクラやソプラノも適切に活かしてマイルドな哀愁的詩情描写にも奥行きに富んだ妙味を見せる、という、全般にしっかり年季が入っていながらも"円熟"より"清新"が勝った印象の吹鳴のあり様は誠に爽やかこの上なしで、また、バップ→ファンクの更に先にある未来派っぽい文脈と、バップ&モード&ブルースの伝統に確固と深く根を下ろした粋で渋い吟醸的アプローチ、をごく自然に表裏一体化させた芸風〜インプロヴィゼーションの懐広さ、にもさすが大いにウナるものがある。加えてメルドー(p)の、あくまでポッターを主役として立てた上で得意のメカニカル技や正統的モーダル・バピッシュ手法を局面に応じ巧緻に活かしきった、何げに劇的な助演も見事。
1. Dream Of Home ドリーム・オブ・ホーム (5:39)
2. Cloud Message クラウド・メッセージ (7:05)
3. Indigo Ildikó インディゴ・イルディコ (7:18)
4. Eagle's Point イーグルズ・ポイント (7:35)
5. Aria For Anna アリア・フォー・アンナ (6:14)
6. Other Plans アザー・プランズ (7:40)
7. Málaga Moon マラガ・ムーン (8:28)
8. Horizon Dance ホライゾン・ダンス (6:39)
9. All The Things You Are オール・ザ・シングス・ユー・アー (9:34) (solo ts) (日本盤ボーナス・トラック)
Chris Potter クリス・ポッター (tenor saxophone except 5) (bass clarinet on 3) (soprano saxophone on 5)
Brad Mehldau ブラッド・メルドー (piano except 9)
John Patitucci ジョン・パティトゥッチ (bass except 9)
Brian Blade ブライアン・ブレイド (drums except 9)
米ニューヨーク、ブルックリンのザ・バンカー・スタジオ(The Bunker Studio)録音
2024年英国作品
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流麗滑脱に波乗り遊泳を愉しむかのような哀愁漂うメロディック・アルト吹奏が軽々悠々と練達の奥義を見せた爽やかな充実作
【PONY CANYON】
●CD 纐纈 歩美 AYUMI KOKETSU / LIMPID FLAME リンピッド・フレイム
地道に年季を重ねて中々豊かな風格と確たる信念そして風流な軽みを感じさせるようになってきた正統派モダン・アルトサックスの人気才媛:纐纈歩美(1988年生まれ、岐阜県土岐市出身)の、5年半ぶり・通算9作目のリーダー・アルバムにしてセルフ・プロデュース第二弾となる本盤は、佐藤浩一(p)、安田幸司(b)、安藤正則(ds)、というこの顔ぶれで10年目に入った鉄壁不動のレギュラー・カルテットによる、入魂の自作曲集。繊細で端正かつしなやかな張りや伸びを呈し、しかも一切リキんだところのない滑脱なる鳴り様を見せるアルトサックスが、奥深い詩情や耽美的ロマンティシズムをあくまでバップ&ブルース(時にはクール・ジャズ)の言語を使ってニュアンス豊かに表現する、といったイメージの憂愁溢れるメロディック・プレイを流れるようにたおやかに綴って、瑞々しくも余情に富んだ中々懐の広い魅力を放ち、堅固で揺るぎなげな硬質ピアノや縦横無尽に的確な機動遊撃を掛けてくるドラム&ベース、らの活躍も大いにスリリングながらピタリとツボにハマりきった、何より主役アルトのひたすらスムースに渦巻きを描く感じの流麗吹鳴が躍動感とともに妙なるリラクゼーションをも齎して、快適に憩わせてくれるさりげなく練達した無駄のない好演内容。今日流らしくリズム・スタイルは多様に変移するが、何より先ず歌心と律動的ノリのよさを重んじる、ブルース・フィーリングも潤沢に備わった現代型ハード・バップ・ジャズの正統、そしてアクティヴ抒情派路線の正統らしい至って明快な娯楽的行き方が歯切れよく続き、リズム・セクションの確固と骨芯の据わった鉄板のダイナミック鳴動にガッチリ支えられつつ、纐纈(as)の、どこまでもふんわりスイスイと遊泳を愉しむかのような丸み&軽みあるアドリブ妙技が、終始ゆとりを残した爽やかな冴えを示して清々しい限り。→大雑把に捉えるなら「チャーリー・パーカー(バップ)発ウエストコーストorクール派経由アート・ペッパー(またある時はリー・コニッツ)行き」とも云うべき芸風が抜群のフレッシュネスを軽々発揮して実に颯爽としており、いかなる局面にあっても決して肩肘張らず脱力感を絶やさない、しかも美旋律センスの卓越したデリシャス・フレーズを悠然と紡ぎ続ける、殊の外親しみやすくも含蓄深い語り口がチョチョイのチョイっぽく"完成の域"を実感させる絶好調ぶり・鮮麗ぶりを(ちょっと飄々と?)湛えていて全く見事。ソリッド&スクエアーな硬派バップ弾奏で座を引き締める佐藤(p)の助演もナイス。
1. Quiet クワイエット
2. Limpid Flame リンピッド・フレイム
3. M's Day エムズ・デイ
4. Leap リープ
5. Ginkgo ギンコウ
6. Daze デイズ
7. Move ムーヴ
8. A Little Boy ア・リトル・ボーイ
all composed by Ayumi Koketsu
纐纈 歩美 (alto saxophone)
佐藤 浩一 (piano)
安田 幸司 (bass)
安藤 正則 (drums)
2024年日本作品
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粋でイナセなファンキー・ソウル一杯の歌いっぷりとよりシリアスな新主流派的モーダル攻勢の双方に堂々と真価を発揮するアルトの勇躍が鮮やかに冴え渡った充実絶頂ライヴ!
【ELEMENTAL MUSIC】
●輸入盤2枚組CD CANNONBALL ADDERLEY キャノンボール・アダリー / BURNIN' IN BORDEAUX : LIVE IN FRANCE 1969
大衆娯楽派ファンキー&アーシー・アルトサックスの第一人者:キャノンボール・アダリー(1928年米フロリダ州タンパ生まれ、1975年インディアナ州ゲイリーで死去)の、弟ナット・アダリー(cor)、ジョー・ザヴィヌル(p,elp)らとのクインテットによる、1969年3月14日フランス-ボルドーのthe Alhambra Theaterでの(ボルドー・ジャズ・フェスティヴァル出演時の)ライヴ音源は、過去その一部が音質の悪いイタリアの海賊盤で出たことがあったが、今回、当時フランス放送協会:ORTFによって録音されたオリジナル・テープ・リールから正式に起こしリマスタリングされた、初のオフィシャル盤、そして初の完全盤として2枚組CD並びに2枚組重量盤LPの2形態で発掘リリースされる運びとなった。ピタリと息の合ったフロント2管の勢いあるアンサンブルがファンファーレの如く勇ましげに轟いた後、絞りが利いていながら野太さをも呈したトーンのアルトが、ある時はソウルフルに吟醸節を唄い、またある時はモーダル・パッショネートに疾走感みなぎった"えぐり込み"咆哮をもアツく繰り出す、一貫して情動性豊かな敏活エネルギッシュ・プレイを朗々と綴って何ともイナセに貫禄満点の華を成し、一方、結構思索性に富みアグレッシヴに迫るコルネットや、シャープネスと翳りを湛えたタッチで苦味走ったハードボイルドな躍動を見せるピアノ、らの活躍も存在感十二分に彩りを添えた、全体を通じ所謂ファンキー・ジャズと新主流派的なモード・ジャズの間を往来する風なドラマティック敢闘が生々しい気魄一杯に続いて、スカッと壮快に昂揚させてくれる充実内容。キャノンボールと云えば先ずはファンキー&アーシーなコク旨娯楽傾向を予想するわけだが、ここでの演奏はブルース色は無論濃いもののその基底には60年代末期ならではの硬派なモード路線という理念が確固とあって(但し後半では勢いに乗じてすっかりファンキー大会と化す!)、そういうピリッとしたシリアスさと天真爛漫そうなおおらかエンタテインメント性とが絶妙のバランスで共存した何げに密度の高い道程が創出されており、そうした中でマッカーディー(ds)やガスキン(b)のキレのあるスリリングな精緻遊撃に鋭く刺激され触発されながら、キャノンボール(as)の歌心とブラック・ソウルに溢れた芳醇なるアドリブ攻勢を筆頭に、銘々の腰の据わったソロ奮戦がこってり濃厚な盛り上がりを見せてゴキゲンだ。キャノンボール(as)の、例によってダウン・トゥ・アースな漆黒のファンキー・テイストと歌謡フィーリングに満ちたパンチのあるメロディック・ブロウがさすが絶好調の冴えを悠々示している他、よりビター&ダークなモード・ジャズの様式・世界観にも抜群の順応性を発揮している辺りがまた新鮮で、その、コルトレーンとは異なるもショーターとかの浮遊感覚にどこか通じるところのある迫真のモーダル・アプローチと、持ち前の"唄う才覚"を全開させた明快晴朗ブルージー節、の両極端に堂々たる妙味を振るった揺るぎない座長ぶりは全く鮮麗。加えて猛然と追撃してくる中々熱血なナット(cor)や、概してモード色強めの行き方やエレピでの白熱ワザに水を得た魚っぽい本領を嬉々として見せるザヴィヌル(p,elp)、らの燃えっぷりもナイス。
Disc1:
1. The Scavenger
2. Manha De Carnaval
3. Work Song
4. Somewhere
5. Why Am I Treated So Bad Into The Scene
Disc2:
1. Experience In E
2. Blue 'N' Boogie
3. Come Sunday
4. Walk Tall (Baby, That's What I Need)
5. Mercy, Mercy, Mercy
6. The Scene
7. Oh Babe
Julian “Cannonball” Adderley (alto saxophone)
Nat Adderley (cornet except Disc2-7) (maybe vocal on Disc2-7)
Joe Zawinul (piano except Disc1-5, Disc2-4, Disc2-5, Disc2-6, Disc2-7) (electric piano on Disc1-5, Disc2-4, Disc2-5, Disc2-6, Disc2-7)
Victor Gaskin (bass)
Roy Mccurdy (drums)
1969年3月14日フランス-ボルドーのthe Alhambra Theaterでのライヴ録音
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クール・スマートなセンスよきコンテンポラリー・モード手法と小粋で渋い伝統的寛ぎファンキー・バップ技を的確に織り混ぜた旨口吟醸ピアノの爽快打!
【自主製作(UKIKUMI RECORDS)】
●紙ジャケット仕様CD 浮城 久美子 トリオ KUMIKO UKISHIRO TRIO / LA NOSTRA STAGIONI
辛島文雄や内田浩誠に師事し、2001年より福岡を拠点にジャズ・ピアニストとしてプロ活動を行なってきた北九州市出身の個性的才媛:浮城久美子の、トリオによるセカンド・アルバム。歯切れよく骨太い、鋭角性や硬質感に富みながら端正さ&軽涼さを垣間見せるところもある、中々ニュアンス豊かな明晰ストーン・タッチのピアノが、精悍で勇ましい殺陣アクション風の迫力満点なダイナミズム攻勢であったり、スマート&メロウ・テンダーな寛ぎボッサ節であったり、小粋さとライト感覚を強めた流麗アーシー・フレージングであったり、かろみの中に漆黒のソウルを潜ませた結構濃い吟醸的アプローチであったりと、表情多彩にして根底にはブルース&バップそしてモードのスピリットが確固と脈打った、哀愁と美メロの宝庫たる正攻法の人情娯楽肌プレイを躍動感も十二分に意気溌溂と綴って清々しい魅力を放ち、シャープにパンチ・キックを突き入れてくるドラムやこってりコク深く雄弁なベース、らの緩急柔剛心得たフレキシビリティ抜群のサポートも鮮やかにツボにハマッた、全編至ってオーソドックスな真っ向勝負の進撃が丹念さをもって快調に続いて、スカッと、或いはスッキリと爽やかに胸のすく昂揚感と旨みが味わえる会心打内容。歌心とスイング感に重点を絞り、ブルース・フィーリングも潤沢に備わった、現代流ハード・バップ系ピアノ・トリオの本道ド真ん中たる親しみやすい活劇調のリリカル・エンタテインメント快演がイキイキと展開され、山村(b)や北原(ds)のわりかし自己主張が強く存在感充分の機動的バックアップに上手く触発される恰好で、浮城(p)の、直球に徹したダイナミック&テイスティー・グルーヴィーなアドリブ奮戦が芳醇かつハートウォーミングに冴え渡り、晴れ晴れと盛り上がりを見せてゴキゲンだ。→オリジナル曲の曲調やその演奏にあたっては幾分コンテンポラリーめのモード・カラーが際立つが、しかしモードとは云っても暑苦しさやアクっぽさとは無縁のセンスよく品のいいクール・エレガントなモード奏法の活用にほぼ終始している、その巧まずして制御され、節度をわきまえた折り目正しい所作動静には大いに好感が持てるところであり、一方既製曲の多くではちょっと手癖の如くレッド・ガーランド辺りに底通する軽やかなコードワークを生かした洒脱め"ファンキー・バップ"手法が的確に揮われていて(これがやはり地か)、こちらもイキな吟醸感たっぷりだったりと、そうした、衒いやケレンを排した殊の外ド真っ当、殊の外誠実で素直な芸風(並びに豪快大胆さと繊細慎重さの配分匙加減・切り換えの妙〜バランスの取り様)は心洗われ胸躍らされる朗らかなる趣があり説得力も絶大。
01. BREAK!
02. Be My Love (Nicholas Brodszky)
03. Rain Then Snow
04. Shiny Stockings (Frank B. Foster)
05. 月が泳ぐ川
06. Danger Zone
07. 神無月
08. I Wish I Knew (Harry Warren)
09. Minato Mirai
10. When Can I See You?
11. Milonga (Anders Person)
12. Harukasumi (solo piano)
浮城 久美子 (piano) (composition on 01, 03, 05-07, 09, 10, 12)
山村 隆一 (bass except 12)
北原 和夫 (drums except 12)
2022年7月12日神奈川県川崎市スタジオハピネス録音
2022年日本作品
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往年のアメリカ白人系抒情派ジャズ・ヴォーカルの正統スタイルに頑としてこだわったテンダー&ノスタルジックな軽妙小粋歌唱が美味しく冴える爽快編♪
【自主製作】
●CD NAAMA (NAAMA GHEBER) ナーマ / WILD IS LOVE
Cellar Musicよりのデビュー・アルバムが好評を博し、その後も着々とアルバム・リリースを重ねてきた、米ニューヨークで活躍するイスラエル出身の女性ヴォーカリスト:ナーマ(Naama Gheber)(1991年イスラエルのベエルシェヴァ生まれ)の、快調・第4弾=ピーター・バーンスタイン(g)参加の変動的小コンボをバックにしての一編。透明感と仄かに甘い潤いを湛えた、トーン高め・線は細めだがシャープな張りやキレを示すところもある、端正でいて骨芯のしっかり据わったクリーン・ヴォイスが、先ずは何より詩の情緒とメロディーの美を大切にして丁寧に物語を読み聴かせるような、と同時にジャズ・ヴォーカルならではのブルージーな吟醸感やレイジーだったりダイナミックだったりのノリ=グルーヴをも自ずと並行体現した、基本はあくまで言葉を重視するリリカル指向の演唱を流麗かつイキイキと快活に綴って爽やかな魅力を放ち、鋭敏闊達な躍動感と古式ゆかしきレトロさを併せ持ったピアノや、アーシー・ソウル満点のコク深いギターら、演奏陣のツボを心得たサポートも旨みと安定感十二分に泰然自若の妙味を揮いきった、全体を通じ徹頭徹尾オーソドックスなセンスよき人情娯楽肌の行き方が続いてホッと温かになごませ、一息つかせてくれる安心内容。インティメイトな和気あいあいのリラクゼーションと敏活な律動的スイング感に貫かれた、少々オールド・ファッションともとれるイキで洒脱な軽妙寛ぎラウンジ小唄セッション、風のハートウォーミングで小気味よい道程が展開してゆき、バック勢のいずれも腕達者で機智ある洒落た妙演に頼もしく支えられつつ、ナーマ(vo)の、何げに腰(&肝)の据わった全き正攻法の歌い回しが結構テイスティー・グルーヴィーに冴え渡って見事。→少なくとも本作を聴く限り、イスラエル色とか現代感覚〜コンテンポラリー傾向などは殆ど認められず、ひたすら1950〜60年代頃のアメリカ白人系抒情派ジャズ・ヴォーカルのスタイルに深く根を下ろした、瀟洒で小粋でちょっぴり渋いそのハキハキと溌溂調子で哀愁ロマンを映すテンダー・スインギー節が実に清々しい輝きを見せており、一部で転回として挿入される情緒性の枠を決して外れないスキャット〜ハミング系統の手法の活用も含め、そうした潔いまでに一切迷いなく"アメリカ人になりきった"歌声のあり様、憧憬の深さは中々圧倒的で説得力も充分。インスト面ではP・バーンスタイン(g)のこってり芳醇な醸熟のブルージー至芸がさすがにやはりダントツ。
01. If I Could Be With You (One Hour Tonight) (vo-g-p-b-ds)
02. Who Am I? (vo-g-b-ds)
03. I Got It Bad (And That Ain't Good) (vo-g-p-b)
04. Do It Again (vo-p-b)
05. From This Moment On (vo-g-p-b-ds)
06. I'm Glad There Is You (vo & g duo)
07. Ooh, Watcha Doin' To Me (vo-g-p-b)
08. Baby, Won't You Please Come Home? (vo-p-b-ds)
09. The Moon Is Gone (Isfahan) (vo & b duo)
10. I Cried For You (vo-g-p-b)
11. A Cottage For Sale (vo & p duo)
12. Wild Is Love (vo-g-p-b-ds)
Naama Gheber (vocal)
Peter Bernstein (guitar except 04, 08, 09, 11)
Glenn Zaleski (piano except 02, 06, 09)
Dave Baron (bass except 06, 11)
Charles Goold (drums on 01, 02, 05, 08, 12)
2023年9月12日米ニューヨークシティのGB's Juke Joint録音
2024年作品
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繊細でニュアンスに富みつつもキレのある堅固な耽美派ピアノ・プレイとシャープかつ切実にさえずるようなソプラノサックスの吟遊詩人的吹鳴との和気豊かな交感
【EIGHT ISLANDS RECORDS】
●セミW紙ジャケット仕様CD JOONAS HAAVISTO - KESTUTIS VAIGINIS ヨーナス・ハーヴィスト / MOON BRIDGE
ストックホルムの王立音楽院やヘルシンキのシベリウス・アカデミーに学び、フィンランドのジャズ・シーンで活躍、以前RockAdilloやBlue Gleamよりのトリオ作品が好評を得ていた中堅ピアニスト:ヨーナス・ハーヴィスト(1982年生まれ)の、今回は、リトアニア出身のサックス(ソプラノ&テナー)奏者:ケスタティス・ヴァイギニス(1978年生まれ)とのデュオによる一編。きめ濃やかで端正かつ力強い鋭角的キレをも備えた重心にブレなき精確巧緻な骨太鮮明タッチのピアノが、奥深い哀愁や詩情、ロマンティシズムを甘美に映し出すと同時にバップやブルースの要素も自ずと潤沢に盛り込んだ、バランス絶妙の半メランコリックなメロディック・プレイを中々歯切れよく綴って典雅そしてグルーヴィーに妙味を揮い、一方、しっかりと芯の通った堅固なトーンでシャープ&スムースにさえずるかのような憂きソプラノ吹鳴、もしくは渦巻くが如きハード・ドライヴ感溢れる重厚テナーのブルージー咆哮、もピアノとは上手くコントラストを成しつつテイスティーな魅力を放った、全体を通じ現代ユーロ系抒情派ならではの折り目正しいたおやかさとオーソドックスなハード・バピッシュ傾向とが妙なる均衡具合を見せる好演内容。インティメイトな和気や親密さとシャキッと背筋の伸びた凛々しさや鋭い緊張感、がごく自然に融和した、何より歌心とスインギーなノリを重んじる美メロの宝庫たる抒情指向妙演、が敏活滑脱に展開され、録音効果・整音効果もあってヒンヤリした冷気〜クールな空気感が漂い続ける道程の中で、ハーヴィスト(p)の壮麗なジェントルマンぶりやヴァイギニス(ss,ts)の牧歌詩人でありバッパーでもある立ち働き、が藹々たる友好ムードをもって清新な冴えを見せており爽快だ。ハーヴィスト(p)の、デリケート&テンダーで微妙に翳りがよぎる風な物憂き浪漫描写が何とも味わい深遠で、その筆致にはヨーロピアン特有の文芸重視姿勢や荘厳なエレガンスも認められるものの、決して内省的になることなくバップ&ブルースの語法も活かして分かりやすい明快娯楽性の枠内に留まって見せる、という、そうした歯止めの掛け様が巧まざるものか考え練り抜かれたものかは判断し難いが、ともかくその"均整"にこそ本領を感じさせる弾鳴は誠に鮮麗で(エレピでの幻想的な繊細グルーヴ技も◎)、かたやヴァイギニス(ss,ts)の、テナーに持ち替えると一挙にハード・バップ色が増すけれども、メインのソプラノでは徹底して欧州流の風雅な吟遊詩人になりきったアンニュイ妙技もまた見事。
1. Miyako (p-ss)
2. Waiting (p-ss)
3. Opener (p-ss)
4. Zenobia (p-ts)
5. One Of Those Full Moons (elp-ss)
6. Bonus Track (p-ss)
7. Lush Life (p-ts)
8. Random Moments (elp-ss)
Joonas Haavisto (piano except 5, 8) (electric piano on 5, 8)
Kestutis Vaiginis (soprano saxophone except 4, 7) (tenor saxophone on 4, 7)
probably 2022年10月18,19日ノルウェー-オスロのRainbow Studio録音
2023年作品
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ヒンヤリ爽涼なクールネスと清潔感に溢れた透徹なる抒情派歌唱が瑞々しい煌めきを見せる北欧ヴォーカルの生鮮秀作
【PROPHONE】
●CD SARA ALDÉN サラ・アルデーン / THERE IS NO FUTURE
スウェーデン-ヨーテボリで活動する新進女性歌手:サラ・アルデーンの、ピアノ&ベースとの3人体制を基本に、一部ゲスト(ハープ、アルトサックス、ドラム)も交えつつの一編。澄みきった透明感やクリーンさと風がそよ吹くような清涼感に溢れ、しなやかな張りや伸びをも呈する、トーン高めで芯のしっかり安定した生鮮度抜群のクール・ヴォイスが、先ずは詩の情緒とメロディーの美を大切にして丹念に語りかけるが如きテンダーな節回しで優しく和ませ、転回としてあくまで歌詞・言葉を尊重する形でジャズ・ヴォーカルならではの勢いあるダイナミックなグルーヴ表現も滑り込ませて快活にノセる、トータルとしては一貫して柔和な情感が損われることのないリリカル指向の演唱を真心こめて丁寧に(またある時は切々とエモーショナルに)綴って、清々しい感動を齎し、バック陣の静かで穏やかそして端正な落ち着いた寛ぎバピッシュ演奏もハートウォーミング&テイスティーに得難い妙味を揮った、全編そのセンシティヴ&インティメイトな歌空間に心地よく浸らせ、ホッと一息つかせてくれる白眉の極楽内容。和気あいあいの親密さとリラゼーションの堅持された、趣味のいいラウンジで一服休憩する気分のなごんだ行き方が続き、ヴォーカル&ピアノ&ベースのピタリと息の合った三位一体のチームワークの鮮やかさも大いに光る流麗滑脱な道程の中で、アルデーン(vo)の、メロウ・ムーディーでありつつ元気溌剌でシャキシャキした面もある、繊細かつ何げに表情豊かなその筆運びが瑞々しくも中々旨味に富んだ冴えを、煌めきを見せて爽快だ。→概ね米白人系抒情派ジャズ・ヴォーカルの伝統を真摯に汲みながら北欧流のヒンヤリ冴えたクールイズムを自然に加味した、基本は幾分可憐な清潔感ある淑女キャラを身上とし、殊に、オリジナリティ充分ながら斬新すぎず原曲の情景から大きく外れない"バラード解釈"のバランスの絶妙さにフレッシュな本領が認められる他、より躍動感や敏活さを強めた局面においては叫ぶようなハジけたブルージー熱唱で適度に意表を衝いてきたりと、その歌声・個性のあり様は生鮮さが途切れず説得力も十二分。折り目正しく神妙に抑制を利かせたビョーン(p)や温かな包容力を感じさせるアンデション(b)、らの助演も卓抜。
01. There Is No Future (Sara Aldén) (vo-p-b-harp-choir=chorus)
02. Misty (Erroll Garner / Johnny Burke) (vo-as-p-b)
03. Someday My Prince Will Come (Frank Churchill / Larry Morey) (vo-p-b-手拍子)
04. I Would Only (Sara Aldén) (vo-p-b-ds)
05. Somewhere Over The Rainbow (for Sven-Olof) (Harold Arlen) (vo-pedal org/p-b)
06. To Let Go (Sara Aldén) (vo-p/pedal org-b)
07. In Between (Daniel Andersson & Sara Aldén) (solo bass)
08. I Don't Know (Sara Aldén) (vo-p-b)
09. They Can't Take That Away From Me (George Gershwin / Ira Gershwin) (vo-p-b)
10. What A Wonderful World (Bob Thiele as ‘George Douglas’/George David Weiss) (vo-p-b)
Sara Aldén サラ・アルデーン (vocal except 07) (arrangement on 02, 08)
August Björn アウグスト・ビョーン (piano except 07) (pedal organ on 05, 06) (arrangement on 02, 04, 05, 08, 09, 10)
Daniel Andersson ダニエル・アンデション (bass) (arrangement on 03, 09, 10)
guests:
Malin Kjellgren マーリン・シェルグレン (harp on 01)
Hannes Bennich ハンネス・ベンニク (alto saxophone on 02)
Johan Björklund ユーハン・ビョークルンド (drums on 04)
*chorus on 01:August Björn, Daniel Andersson & Johannes Lundberg
2024年スウェーデン作品
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O・ピーターソンを軽涼化したような端正な寛ぎファンキー・バップ・プレイがさすが円熟の冴えを余裕で見せる簡潔快適編
【澤野工房】
●CD JOS VAN BEEST TRIO ヨス・ヴァン・ビースト・トリオ / IF YOU ONLY KNEW イフ・ユー・オンリー・ニュウ
1970年代後期よりプロ活動を行い、澤野の諸作でブイブイ言わせてきたオランダの人気ヴェテラン・ピアニスト:ヨス・ヴァン・ビースト(1956年生まれ)の、今回はギター&ベースとの所謂"旧式ピアノ・トリオ"による一編。きめ細かで流れるような滑らかさと鮮明なキレを併せ持った、アウトラインとしては端正めのクリアー・タッチ・ピアノが、吟醸的アーシー・ソウルとアメリカン歌物由来の洒脱さに溢れた寛ぎバップ・プレイをひたすら軽妙に紡いで、風流でいて含蓄豊かな熟達の魅力を揮い、精確なリズム・カッティングと少々荒削りでダウン・トゥ・アースなこってり節を上手く使い分けるギターや、柔和な温もりと力強く歯切れよいドライヴ感を兼ね備えたベース、らの活躍も各々ピタリと鮮やかにツボにハマッた、全編明快で優しい人情娯楽肌メロディック演奏の連続においしく小気味よく酔わせてくれる、センスよき好投内容。ドラムレス編成ならではの丸みある軽やかなサウンドの感触も心地よく、インティメイトな和み気分と流麗なスインギー・グルーヴに貫かれた、歌心徹底重視の気さくそうなリリカル奏演がゆとりと機智をもって滑脱に展開してゆき、J.v.ビースト(p)の芸風ならびにレパートリーのせいもあって、ヨーロッパ色は殆ど感じさせずアメリカ・テイストに富んだごく親しみやすい"寛ぎラウンジ小唄セッション"の様相を呈していて、どこまでもシンプル・ストレートでブルースの旨味に満ちた大衆派エンタテインメントの鑑とも云うべき道程の中、J.v.ビースト(p)の、リキみを解いた自然体にして脱力感覚溢れるプレイ、そのハートフルな憩いの味わいが聴く者にもダイレクトに伝播して、思わずゆったりリラックスできる寸法となっており、全くゴキゲンだ。J.v.ビースト(p)の、スタイル的にはオスカー・ピーターソンを幾分かライト化・ソフト化して、(少なくとも本盤では)ストライド手法や大立ち回りのアクション傾向は控えめに抑えた感じの、穏やかな「ファンキー・バップ」弾奏が簡潔かつ幽玄深く悠然と冴え渡っていて見事で、バラード辺りではヨーロピアンらしい耽美的浪漫センスを垣間見せたりもするが基本の立ち位置はあくまで"ファンキー"から外れることがなく、欧州カラーは持ち前の折り目正しい所作・筆捌きにほぼ留めている、というバランスのとり様が何げに達人の熟練(と淡々さ?)を感じさせる。加えてKoning(g)の、クリスチャン〜ケッセル系バップ・ギターの正統奏法を根幹に、ソロ・パートでエキサイトしてくるとベンソン〜グリーン系とまでは行かないまでもブルース色(〜ソウル・フレイヴァー)の濃い勇み肌の攻勢にも転じる、その中々ドラマティックな奮戦も好アクセント。
01. I've Got The World On A String
02. Song To Elitha
03. I'm Confessin'
04. That's All
05. If You Only Knew
06. Broadway
07. Old Folks
08. But Not For Me
09. Body And Soul
10. Blues In The Closet
11. Love Ballade / Hymn To Freedom (solo piano)
12. Yours Is My Heart Alone
Jos van Beest (piano)
Vincent Koning (guitar except 11)
Hans Mantel (bass except 11)
2024年作品
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"ブルース"と"スピリチュアル"をキーワードとする清涼なヴィブラフォンやパッショネートなアルトサックスの活躍が精悍に映えた現代硬派モード・ジャズの逸品
【BLUE NOTE】
●CD JOEL ROSS ジョエル・ロス / NUBLUES
躍進続く新世代ジャズ・ヴィブラフォンの雄:ジョエル・ロス(1996年米イリノイ州シカゴ生まれ)の、Blue Noteでの4作目となる本盤は、イマニュエル・ウィルキンズ(as)やジェレミー・コレン(p)ら馴染みの精鋭連との小コンボ基本(ゲストとしてフルートのガブリエル・ガロが3曲に登場)での一編。清涼感や透明感そして潤いに満ちたクリーンかつ半メタリックなトーンも心地よいヴィブラフォンの、ブルース・フィーリングとスピリチュアリティをたっぷり込めてエモーショナルに哀愁を歌う、クールであり情熱的でもある流麗グルーヴィー・プレイが実にコク深い魅力を放ち、一方、絞りの利いた音色で静かだがパッショネートな、一音一音に情魂のこもった軽妙ブロウを繰り出すアルトの働きも、ヴィブラフォンに上手く呼応したイナセげで華やかな個性を揮い、また、どちらかと云うと超然とマイペースで穏やかなスピリチュアル情景を映す折り目正しいピアノや、ジワリと鋭くサスペンスフルに躙り寄るドラム&ベースの自在な遊撃、といった辺りもそれぞれハマるべきツボにピタリとハマりきった、全体を通じ今日流・ロス流スピリチュアル・ジャズの世界を鮮度抜群に愉しませる密度も濃い敢闘内容。基本はあくまで現代モード系ハード・バップ・ジャズのオーソドックス・スタイルに則った、「ブルース」と「ブラック・スピリチュアル」をキーワードとする情緒型の滑脱スインギー妙演が中々小気味よく展開され、ピアノ&ベース&ドラムの堅実にしてゲリラ性ある機動ぶりに適宜触発されながら、終始確固と主役の座を死守するロス(vib)や、一歩引いて一ソロイストとしての活躍に興じるウィルキンズ(as)、らの熱さと落ち着きを併せ持ったアドリブ奮戦がフレッシュ・スリリング&テイスティーに冴え渡り、生々しく盛り上がりを見せて壮快だ。ロス(vib)の、モダン(バップ)以降からコンテンポラリーまでのジャズ・ヴィブラフォンの様々なスタイルを巧緻に会得し、ブルースとスピリチュアルに特化したかのような冷涼でいてエネルギッシュでもあるその縦横無尽な情動活写プレイが、グルーヴ・テイストとスター性満点の芳醇なる映えを示しており、かたやウィルキンズ(as)の、フレージングはアグレッシヴながらそれを敢えて脱力調子で飄々と綴る感じの、コルトレーンをライト化・ソフト化したが如き悠然たる吹鳴がまた何げに余情豊かな妙味を振るって秀逸。加えて、登場するや音空間に爽やかな涼風をそよ吹かせるガロ(fl)や、マッコイ流儀もこなすもののその本領はクラシック・ピアノとかに底通する荘厳でエレガントなアプローチにこそあり!のコレン(p)、らの端麗さ溢れる活躍もナイス。
01. early
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
02. equinox
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
03. mellowdee
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
04. chant
Joel Ross (piano)
Gabrielle Garo (flute ; overdubbed fl-ensemble)
05. what am I waiting for?
Joel Ross (vibraphone)
Gabrielle Garo (flute)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
06. bach (god the father in eternity)
Joel Ross (vibraphone)
Gabrielle Garo (flute)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
07. nublues
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
08. ya know?
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
09. evidence
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
10. central park west *nublues (fade)
Joel Ross (vibraphone)
Immanuel Wilkins (alto saxophone)
Jeremy Corren (piano)
Kanoa Mendenhall (bass)
Jeremy Dutton (drums)
Joel Ross (vibraphone except 04) (piano on 04)
Immanuel Wilkins (alto saxophone except 04)
Gabrielle Garo (flute on 04, 05, 06)
Jeremy Corren (piano except 04)
Kanoa Mendenhall (bass except 04)
Jeremy Dutton (drums except 04)
米NYブルックリンのThe Bunker Studio録音
2024年アメリカ作品
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柔和で落ち着いた、かつ力強い抒情派歌唱が何とも爽やかな感動と晴れやかな希望を齎す、あくまでジャズの美学と真心が全編を貫く北欧ヴォーカルの謹製品
【ACT】
●CD VIKTORIA TOLSTOY ヴィクトリア・トルストイ / STEALING MOMENTS
1990年代からスウェーデン・シーンで活躍、文豪トルストイの玄孫にあたるロシア系スウェーデン人のジャズ歌手であり、ジャズに確固と軸足を置きながらポップス、ファンク畑などオールラウンドな適応力も軽々発揮してきた人気才媛:ヴィクトリア・トルストイ(1974年スウェーデン-シグトゥーナ地区マーシュタ生まれ)の、今回は、ACTでの第1作「Shining On You」(2004年)から20年になるのを記念しての、ピアノ、ギター、ベース、ドラムのカルテットをバックにした円熟の一編。ヒンヤリ涼やかでクリーンに澄みきった透明感や潤いを湛え、同時にしなやかで力強い張り&伸びを呈する、時折ハスキーに掠れる辺りがまたチャーミングな、トーン高めで骨芯のしっかりしたブレのない鮮明ヴォイスが、何より歌詞の情緒とメロディーの美を大切にしてクリアー&ストレートに楽曲の光景を活写する、ハキハキした明晰な発声と溌溂たるポジティヴな意気+真心に貫かれたリリカル歌唱を闊達げに綴って、何ともスッキリ爽やかな清々しく瑞々しい華を成し、テンダー&ロマンティックな繊細ピアノやコンテンポラリー感覚溢れるギター、温もりたっぷりの包容力あるベース、芸の細かい色彩感豊かなドラム、らインスト陣のツボを心得たセンシティヴ&グルーヴィーなサポートもバッチリ旨味ある魅力を際立たせた、全編ひたすら真っ当な現代ジャズ・ヴォーカルの王道を行く快演が続いて、フレッシュ・デリシャスに感動させ、心地よく憩わせてくれる鮮麗なる充実内容。インティメイトな和み気分と敏活でダイナミックな歯切れよいノリ=グルーヴ感の両立した、リズム・スタイルや曲調は今時らしく刻々と変化し、ポップス風やファンク寄りのトラックもあるが、トルストイのヴォーカルはどこを切ってもあくまで揺るぎない"ジャズの道"を完うしており、その真摯に初心に返ったような誠実で丁寧そしてブルージーな優しくも背筋の伸びた歌い回しが、腕達者なバック勢の当世流バピッシュ演奏にしっかりと支えられて実に晴れやかかつハートウォーミングに見せ場を飾りきっていて、全く見事。→白人系抒情派ジャズ・ヴォーカルの伝統理念に先ずは確固と根を下ろし、そこへ現代北欧流あるいはトルストイ流のポップ・フィーリング(ちょっとSSW系っぽい趣も...)を適度に加味、だがその基軸はジャズから外れることがなく、そして何より一語一句、一声一声に丹念に誠心を込めて柔和かつ屈強に切々とニュアンス濃やかな歌景色を映し出してゆく、その明るくデリケートで謙虚な歌唱表現のあり様は聴いていて思わず胸がスッとする心地よさと豊かな感動に満ちていて、さすが巧まざる熟練の妙味だ。
01. A Love Song (vo-acg-key)
02. Good And Proper End (vo-elg-p-b-ds)
03. Wherever You're Going (vo/tambourine?-elg-p/celeste-b-ds)
04. Hands Off (vo-elg-p-b-ds)
05. Summer Kind Of Love (vo-elg-p-b-ds)
06. Don't Wanna Lose You (vo-elg-p-b-ds/per)
07. License To Love (vo-elg-p-b-ds)
08. What Should I Do (vo-elg-p/key-b-ds/per)
09. Synchronicity (vo-elg-p/key-b-ds/per)
10. Stealing Moments (vo-elg-p/key-b-ds)
Viktoria Tolstoy (vocal) (possibly tambourine? on 03)
Joel Lyssarides (piano except 01) (keyboard on 01, 08, 09, 10) (celeste on 03)
Krister Jonsson (electric guitar except 01) (acoustic guitar on 01)
Mattias Svensson (bass except 01)
Rasmus Kihlberg (drums except 01) (percussion on 06, 08, 09)
2023年9月18-21日スウェーデン-マルメのGula Studion録音
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芸の細かい巧緻かつセンスよきドラム&ベースの敏捷ダイナミズム攻勢を受けて自然体調子のビタースウィートな抒情的ピアノ・プレイが軽やかに冴える懐深いトリオ快編!
【JAZZ&PEOPLE】
●CD YES! TRIO イエス! トリオ / SPRING SINGS
当Jazz&Peopleから2019年にリリースされた(録音は2018年)一作「Groove du Jour」が好評だった、ドラムのアリ・ジャクソン(1976年米ミシガン州デトロイト生まれ)をリーダー格とする、ピアノのアーロン・ゴールドバーグ(1974年米マサチューセッツ州ボストン生まれ)&ベースのオメル・アヴィタル(1971年イスラエルのギヴァタイム=Givatayim生まれ)とのオールスター・ピアノ・トリオ=Yes! Trioの最新アルバムが登場。鋭利な剃刀パンチを半ば脱力調子で軽やかに繰り出してくるドラムや、ハジきよくもコク深くこってりとウネり躍り重低音をヒットするベース、らの立ち働きも各々濃い存在感を際立たせる中で、歯切れよさやシャープネスと澄んだ清流の如き潤いや滑らかさ(+透明感)を併せ持ったクリアー・タッチのピアノが、ある時はダイナミック・バピッシュもしくはモーダル・エネルギッシュに疾駆突進し、またある時はリキみを解き間の妙も活かしつつゆったりと哀愁を歌う、メロディアスだが決して甘すぎず制御の利いた躍動型抒情指向プレイをゆとりをもって滑脱に綴り、爽快にして行間豊かな魅力を放った、親しみやすくも風格ある好投内容。メロディーや和声の美と敏活で力強いスイング感を何より重んじ、ブルース・フィーリングも潤沢に備わったリリカル・アクション・タイプの闊達妙演がノリよく小気味よく展開され、歌心は豊富だが同時にハード・バップ・ジャズならではのピリッとしたシリアスな緊張感やほろ苦いスパイス風味にも事欠かない、巧まず絶妙に剛柔バランスのとれた今日感覚溢れるコンテンポラリー・バピッシュな行き方が続く中で、主役格ゴールドバーグ(p)の肩肘張らず自然体で伸び伸びイキイキと得意技をキメる正攻法活躍が清やかに映える他、アヴィタル(b)の結構前のめりの威勢でもって隙あらば主役の座を奪取せんと踏ん張りを効かせる饒舌な濃厚熱演も猛烈に追い上げ様を見せ、ボスであるジャクソン(ds)は一歩引いてデリケートかつ温かに彼らを盛り立てる、という、インタープレイ的な相互触発傾向もナチュラルに示しつつの三者三様の立ち振る舞いが、それぞれにしっかりテイスティーな妙味を揮って素晴らしい。とりわけ一座の花形たるゴールドバーグ(p)の、伝統的バップ・イディオム奏法、ややアグレッシヴめのモード系ダイナミズム攻勢、繊細でマイルド・ロマンティックな憂き詩情描写、粋でイナセで渋味&吟醸感あるファンキー小唄調のアジな節回し、などをあくまで堅実にソツなくこなし、トータルなアウトラインとしては敢えて薄味のパステル・カラーっぽい音像に軽々悠然と仕上げて、後には風流な含蓄雅趣的余韻を残す、そうした、スッキリしていながら達観・諦念めいた境地を感じさせる語り口は何げに絶品だ。
01. Spring Sings
02. 2K Blues
03. Bass Intro To Sheikh Ali (solo bass)
04. Sheikh Ali
05. The Best Is Yet To Come
06. Sancion
07. Omeration
08. How Deep Is The Ocean
09. Shufflonzo
10. Fivin'
Aaron Goldberg (piano except 03)
Omer Avital (bass)
Ali Jackson (drums except 03)
2024年フランス作品
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レイジー・スモーキーで渋〜いテナーや明るく晴れやかなシャキシャキしたトランペット、クール・グルーミーな憂きギターらが色彩感豊かに見せ場を繋ぐ生粋2管ハード・バップの真骨頂!
【CORNERSTONE】
●CD BARRY ELMES QUINTET バリー・エルムズ / NIGHT FLIGHT
当Cornerstoneのレーベルオーナーでもあるヴェテラン・ドラマー:バリー・エルムズ(1952年カナダ-オンタリオ州Galt生まれ)は、1980年代からカナダ主流派シーン第一線で精力的に活躍し、1991年に自己のクインテットを結成、以降、メンバーを入れ替えながらクインテットとしての活動を存続してきたが、本盤はそのクインテットの最新体制(withトランペット&テナーサックス&ギター&ベース)による一編。シャープなキレと爆発的パンチの効いたドラムの精緻さ溢れる敏捷ダイナミズム攻勢や、太く重みある音色で弾力満点にウネり躍るベースのスウィンギン鳴動、にシャキシャキと上手く煽られる恰好で、陰影濃くこってりした渋味を漂わすスモーキー・テナーや、ハキハキ・キビキビした明晰さとまろやかな詩的ロマンティシズムを自然に交差させる旨口トランペット、繊細でクール&グルーミーなおぼろに霞むが如き風合いと鋭く折れ曲がるソリッド感を兼備したアンニュイ・ギター、らが代わる代わるフロントに現れては色彩感と美味さに満ちたテイスティー・グルーヴィーな見せ場を繋いでゆく、徹頭徹尾オーソドックスにして極めて密度の濃い白眉の充実内容。歌心とスイング感を何より大切にしたごく分かりやすい大衆娯楽指向な2管ハード・バップの鑑とも云うべき、但しピアノでなくギターが入っていることで独特の仄暗くメロウな涼感や軽みが齎されている辺りのアクセント効果・香味効果も絶妙の、ブルース・フィーリングにも富む所謂モダン・ジャズ黄金時代のようなスッキリとした純正バピッシュ快演が滑脱に展開してゆき、溌溂とした快活さと幾分けだるいリラクゼーションの入り混じったこれぞ生粋バップ!たる味わい豊かな道程が続く中で、精確かつ巧妙にプッシュしてくるエルムズ(ds)や抜群の安定感で力強く波打ち律動するコリンズ(b)、らのともに芸の細かい鉄板サポートにガッチリ頼もしく支えられ、触発されながら、オケイン(tp)、ゲイル(ts)、ロフスキー(g)の、いずれも千両役者然たる揺るぎないスター性と熟した旨味に満ちたアドリブ活躍が、威風ならびに余裕ある盛り上がりを呈して、全くゴキゲンだ。オケイン(tp)の、ハード・バップ・トランペットの本道を真っ直ぐ突き進むスカッと晴れやかな闊達アクションを基本身上とし、時折より耽美的でポエティックな浪漫香る哀愁抒情アプローチにも転じてメリハリをつける、根はあくまで直球勝負肌の立ち働きが誠に爽やかな魅力を放っており、一方ゲイル(ts)の、明朗陽気なオケインに比しどちらかと云うとレイジーな脱力感や翳りを際立たせつつのややソフト・ドライヴィングな半頽廃的ブロウがまた、何とも懐の深そうな燻し銀の妙味を悠然と揮っていて秀逸、加えてロフスキー(g)の、ジミー・レイニーやジム・ホール辺りにも通じる硬質冷涼プレイでクーリッシュに的確な異彩を成していたかと思えば、至極真っ当にクリスチャン〜ケッセル系バップ・イディオムを活かしきったブルース・フレージングでしっかりと吟醸感を演出したりと、そのさりげなくグループ全体の「味」を左右する役割を担っている風なさすが貫禄の妙技も殊の外快調。
1. Night Flight (5:54)
2. Morning Star (9:50)
3. Opus 3 (7:04)
4. Sandino (9:30)
5. Hindsight (8:16)
6. Azure Te (7:44)
7. Spiral Dance (6:20)
8. Turn Out The Stars (7:30)
9. Funk In Deep Freeze (7:53)
Brian O'Kane (trumpet)
Chris Gale (tenor saxophone)
Lorne Lofsky (guitar)
Pat Collins (double bass)
Barry Elmes (drums)
2023年9月17-18日カナダ-トロントのInception Sound Studios録音
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